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それは、特別な日ではなかった。
子どもを保育園に送り出して、洗濯を回して、朝食の片付けをして。いつもと同じ朝だった。着替えようとしてクローゼットを開けたとき、なんとなく全身鏡の前に立った。
パジャマのまま映った自分の姿を見て、頭の中でこんな言葉が浮かんだ。
「もういいか」
痩せることを、諦めようかという気持ちだった。
10年以上続けてきたダイエットを、もうやめようかという気持ちだった。「どうせ変われない」という言葉が、頭の中でひどく自然に響いた。
38歳の秋のことだった。
「もういいか」と思うまでの10年間
産後から体重が戻らなかった。第一子を産んだのが34歳、第二子が35歳。出産のたびに体重が増えて、産後に戻らないまま3年が経った。
その間に試してきたことは数えきれない。糖質制限・ファスティング・プロテイン置き換え・ジム通い・ヨガ・ウォーキング・腹筋ローラー・ダイエットサプリ・酵素ドリンク。全部試した。全部、続かなかった。
ジムは2回入会して2回やめた。続かなかった理由はいつも同じで、子どもの急な発熱・育児の疲れ・「今日くらいは休もう」の積み重ねだった。
糖質制限は3ヶ月で5kg落ちたが、4ヶ月目にリバウンドが始まって、半年後には3kg戻っていた。
サプリは棚の中に使いかけのものが山積みになっていた。
失敗のたびに自分を責めた。「意志が弱い」「続けられない」「どうせ私には無理だ」。その言葉を何度も自分に言い聞かせてきた。
そして38歳の秋、鏡の前で「もういいか」と思った。諦めることへの罪悪感より、諦めることへの安堵の方が大きかった。それが一番こわかった。
「もういいか」の正体
その日の夜、子どもたちが寝てから、一人でその気持ちと向き合ってみた。
「もういいか」と思ったのは、本当に痩せることを諦めたかったからだろうか。
少し考えて、違うと思った。
痩せることを諦めたかったのではなく、「また失敗すること」に疲れていた。
頑張るたびに続かない。続かないたびに自分を責める。また頑張ろうとするたびに、「どうせまた失敗する」という声が頭の中で先に響く。そのサイクルに、10年以上疲れ続けていた。
「もういいか」は諦めではなく、SOSだったのかもしれない。「このやり方ではもう無理だ」という体と心からのサインだったのかもしれない。
そう気づいたとき、少しだけ気持ちが変わった。「諦める」のではなく、「やり方を変える」という選択肢があることに、初めてちゃんと向き合えた気がした。
諦めなかった理由
完全に諦めなかった理由は、正直に言うと一つではない。
一つ目は、娘の一言だった。
「もういいか」と思った数日後、保育園の帰り道で娘が私の手を握りながらこう言った。「ママ、きれいだね」と。
反射的に「ありがとう」と返したが、胸に刺さった。鏡の前で「もういいか」と思っていた自分のことが、娘にはきれいに見えている。子どもの目には、体重も体型も関係ない。ただ「ママ」として映っている。
それでも私は、自分の体が好きになれなかった。娘にきれいと言ってもらえても、鏡の前でため息をついていた。
「娘が大きくなったとき、私みたいに自分の体を嫌いにならないでほしい」と思った。そのためには、私自身が自分の体と少しずつ向き合い直す必要があると感じた。
二つ目は、友人の話だった。
同い年の友人に「最近どう?」と聞かれて、「もうダイエット諦めようかと思ってる」と正直に話したとき、友人がこう言った。「諦めるんじゃなくて、やり方変えてみたら?私エステ行き始めてから変わったよ」と。
その言葉が引っかかった。「諦める」ではなく「やり方を変える」。さっきの自分の気づきと重なった。
その夜、痩身エステを調べ始めた。
エステに行くまでの葛藤
調べ始めてすぐ、体験コースを予約しようと思った。でも予約ボタンを押すまでに、1週間かかった。
葛藤の理由はいくつかあった。
「お金をまたムダにするんじゃないか」という気持ちが一番強かった。ジムの入会費・サプリ代・ダイエット本の代金。これまでダイエットにかけてきたお金は、振り返ると相当な金額になる。それが全部続かなかった。エステも同じになるんじゃないかという恐れがあった。
「自分だけ贅沢しているんじゃないか」という罪悪感もあった。子どもの習い事・家族の食費・将来のための貯金。優先すべきことが他にあるのに、自分のエステにお金を使っていいのかという気持ち。
「どうせ続かない」という諦めもあった。ジムもサプリも続かなかった私が、エステを続けられるのか。また3回で行かなくなるんじゃないかという不安。
それでも予約ボタンを押したのは、「このまま何もしなければ、何も変わらない」という当たり前の事実に、改めて気づいたからだった。諦めかけていたとき、何もしないことへの後悔が、動くことへの恐れより少しだけ大きくなった。
初めてエステに行った日
体験コースの予約を入れたのは、平日の昼間だった。子どもを送り出してから、誰にも言わずに一人で行った。
正直、緊張していた。エステに行くのは初めてで、どんな雰囲気かも、何をされるかもよくわからなかった。「高い契約を迫られたらどうしよう」という不安もあった。
でも実際に行ってみると、想像と違った。
カウンセリングで最初に聞かれたのが「冷えやすいとか、むくみやすいとかありますか?」だった。「どこを細くしたいですか?」から始まるのかと思っていたので、体質を先に聞いてくれたことが意外だった。同時に、「ここは体のことをちゃんと考えてくれているんだ」と感じた。
施術台に横になって、遠赤外線ヒートマットで体が温まっていく。外の音が遠くなって、しばらくの間、自分のことだけを考えていい時間が始まった。
そのとき気づいた。こんなに長い時間、自分のことだけを考えたのはいつ以来だろう、と。
子どものこと・家事のこと・夫のこと。いつも頭の中は誰かのことで埋まっている。でもこの1時間は、何も考えなくていい。その感覚が、思った以上に心に響いた。
施術が終わって帰る道、足が軽かった。体だけじゃなく、気持ちも軽かった。「もういいか」と思っていた1週間前の自分と、何かが違っていた。
「もういいか」から「もう少し続けてみよう」へ
エステに通い始めて3回目のとき、スタッフの方が体を計測してくれた。
ウエストが1.5cm、太ももが0.8cm細くなっていた。
数字として小さく見えるかもしれない。でも私には大きかった。「自分の体は変わる」という事実を、初めて数字で見せてもらえたからだ。
10年以上「変われない」と思ってきた体が、動き始めていた。
それからの変化は、体型だけではなかった。エステに通う日を「自分のための日」として意識するようになった。施術を受けながら、体のことを教えてもらいながら、「自分の体とちゃんと向き合っている」という感覚が積み重なっていった。
「もういいか」という気持ちが、「もう少し続けてみよう」に変わったのは、エステで小さな変化を積み重ねていく中だった。劇的な変化があったわけではない。ただ、「続けていれば変わる」という信頼が少しずつ生まれていった。
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あの日の「もういいか」に、今思うこと
鏡の前で「もういいか」と思ったあの朝から、数ヶ月が経った。
今も体型は途中だ。劇的に痩せたわけではない。まだ鏡の前でため息をつく日もある。完全に変わったとは言えない。
でも、あの朝と今では、何かが確かに違う。
あの朝の「もういいか」は、諦めに近い言葉だった。今の私には、あの諦めかけた感覚がない。正確には、「またいつかそう思うかもしれない」という不安はあるが、今この瞬間は「もう少し続けてみよう」という気持ちの方が強い。
変わったのは体型より先に、「諦めなくていい」という感覚だったと思う。
やり方を変えたことで、続けられるようになった。続けられるようになったことで、小さな変化が積み重なってきた。小さな変化が積み重なってきたことで、「もう少し続けてみよう」という気持ちが生まれた。
あの日、鏡の前で「もういいか」と思ったことは、今では「あの気持ちがあったから変われた」と思っている。諦めかけたことで、10年間繰り返してきたやり方を手放せた。諦めかけることにも、意味があったのかもしれない。
同じ気持ちになったことがある方へ
このコラムを読んでいる方の中に、「もういいか」と思ったことがある方がいたら、一つだけ伝えたいことがある。
それは諦めじゃなくて、やり方を変えるサインかもしれない。
10年間、同じパターンで失敗を繰り返してきた。「続けられない自分がダメ」だと思ってきたが、今は「続けられないやり方を選んでいたのかもしれない」と思っている。意志の問題ではなく、方法の問題だった部分が大きかった。
「もういいか」と思ったとき、それを「諦め」にするか「転換点」にするかは、その後の選択にかかっている。私はたまたま友人の一言でエステを試した。それが転換点になった。
あなたの転換点が何になるかは、やってみないとわからない。でも、「もういいか」と思ったことは、「諦めていいよ」というサインじゃなくて、「そろそろやり方を変えていいよ」というサインなのかもしれない。
まず体験コースだけでも行ってみてほしい。合わなければそこで終わりにできる。合えば、何かが変わり始めるかもしれない。少なくとも私にはそうだった。
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なつみ